手製本のための製本機「とじ助」
実用新案登録第3212459号
2008年当初は原稿を大型クリップで挟んで製本をしていました。ですが、クリップだとしっかり固定できず、製本をしている途中で原稿がずれてきてしましました。
次に、高さ10cmくらいの2枚の板で挟んでクランプで固定してみました。しっかり固定できるようになりましたが、板が薄いせいか閉めれば締めるほど原稿と板の間に隙間ができてしまいました。そこで、板を厚くしました。板を厚くすることで隙間もできなくなりました。
これで原稿は安定しましたので、しばらくはこの形で使っていました。
数冊の製本をするのならこれでよかったのですが、何十冊もつくる必要が出てきた時に、1冊作るたびに、左右の万力をつけたり外したりするのが面倒になってきました。
そこで、締板の左右に穴を開けてボルトを通すことにしました。工具がなくても締められるようにナットは蝶ナットとしました。これで万力をつけたり外したりする面倒はなくなりましたが、締板に通したボルトが空回りするため、締めるのにコツがいるようになってしまいました。
いろいろ思案した結果、ボルトの片側を爪付きナットで固定するようにしました。さらに、締めつけ時の強度を維持するために蝶ナット側にはバネワッシャを入れました。
これで、ボルトが空回りすることもなくしっかり固定できるようになりました。
この形の製本機は長く使えました。
ただ、次のような点に不満を持ちながら使っていました。
- 製本機から垂れ下がる原稿の高さを保持するのに都合のよい物が見つからず、新聞ストッカーの上に製本機をのせていましたので、背溝を入れるときや背糊を溶かすためにアイロンをあてるときにガタついて作業がしにくい。
- 原稿を締める前段階として原稿をきれいにそろえる必要がありますが、せっかく綺麗に原稿を揃えても、締めつけの際に原稿が少し動いて不揃いになってしまう。
- 背溝を切るときのために、製本機から少し原稿が飛び出ている必要がありますが、「2」と関連して原稿の背が揃った状態で飛び出させるのが難しい。
1年ほど使ってみて、やはり上記3点を何とかしたいと思い、大きく改良することを考えました。「1」のガタツキの解消には、締板と高さ保持の物(今のところ新聞ストッカー)を固定してしまうのが一番いいのですが、製本機自体が大きくなって場所をとるのも困るし、原稿の差し込み、抜き取りがしにくくなるのも困るので、取り外しのできる足のようなものをつける事を考えました。ただ、取り外しができるということとガタつかないようにするというのは相反することです。しかも、ガタつくということを細かく分析すると、溝切りの時は主に前後に力がかかり、アイロンあての時は主に左右に力がかかるのでその両方を満足する必要があります。
いろいろ試作しては改良を繰り返し、締板に垂直に足をつけることにしました。足は、取り外せるように締板にスリットを切って、そこに差しこむようにします。スリットの幅は足と隙間なくピッタリとはまるようにして、左右のガタツキをなくし、足のサイズは、原稿の高さより高くてかつ、前後方向に力がかかってもガタつかない幅を持つものと考えました。
さらに「2」の原稿のそろえについても、足をつけることで解消するのではと思いつきました。足に原稿をあてることで、原稿の天をそろえることができます。背は、製本機を逆さにおいて原稿を差し込めば重さで勝手にきれいにそろいます。その際に、原稿の飛び出しの高さ分のゲタをつけておけば、飛び出しを確保できます。これで「3」も解消できます。
製作技術の要求レベルは高くなりますが、足をつけることで3つの悩みが一気に解消できる目処がたちました。
せっかく作るのであれば、徹底的にこだわって、次のような方針としました。
1.ほんとうに「使える道具」であること
手製本では、原稿をそろえる、押さえる、背溝を切る、背糊を固める(アイロンをあてる)、表紙をつける、製本テープを貼るなどの作業がありますが、これ一台ですべての作業ができるようにすること。作業時はノコが滑って製本機に傷をつけてしまったり、背糊がながれて製本機を汚してしまったりすることがありますが、そんな時でもあくまでも道具として、気がねなくどんどん使えるよう安価であること。さらに、滅多なことでは壊れない頑丈さと修理のしやすさをもつものとしました。
2.姿が美しくて、愛着の持てるもの
あくまでも道具なので機能がそろっていればよいわけですが、自分で作った手作りの本に愛着がわくように、製本機にも愛着が湧けばいいなと。そのためにも、見た目が美しくて手ざわりの良い物にしようと思いました。
3.使いながら改良を加えられるもの
いままでも使いながら改良を加えて、さらに使い良いものにしてきたので、今後もアイデアが浮かんだ時にそれを取り入れやすいようにしておきたいと考えました。これは「2」の愛着にもつながることだと思います。
こうして2011年に手製本のための製本機「とじ助」が完成しました。とじるのを助けるので「とじ助」です。
2011年から現在に至るまで大きな改造を加えることなく多くの方に使っていただけるロングセラーとなっています。
製本機 とじ助 のこだわり
一台ですべての作業ができる
紙の束を製本するには、
- 背を平らに揃える
- 天を平らに揃える
- 背に溝を刻む
- 背をアイロンで糊付けする
- 製本テープを貼る
などの工程が必要です。配布資料やテキストをたくさん作るのには手間がかかりますが、これ1台ですべての作業ができるので、作業効率が上がります。
きれいに製本できる
きれいに製本するためには原稿がきちっと揃って重なっていることが大切です。揃っていなくて凸凹だと見栄えが良くないだけでなく、ページをめくるのも一苦労です。
しかし、背と天を同時に綺麗に揃えるのはなかなかうまく行きません。背を揃えていると天がずれてきて、天を揃えると背がずれてくるという具合です。特に、紙が薄い場合や原稿のページ数が多くなればなるほど難しくなります。
とじ助は原稿を床に垂直にトントンと落とすことで背を揃え、足板に水平にトントンと突き当てることで天を同時に揃えることができます。
適度な飛び出し(糊しろ)の確保
本の背に溝をつける時やアイロンで糊を溶かすときには、製本機と背との間にすこし飛び出しが必要です。とじ助 には2対の突起が左右についていて、原稿をセットすると自動的に、原稿の飛び出しを確保してくれます。また、この突起は木製ですので、アイロン掛けの際にアイロンがあたってもプラスチックのように溶けたり、金属のように熱くなったりしません。
足板は正方形
足板は真四角の形をしています。これには2つの理由があります。
一つは、背溝を切るときに前後のガタツキをなくすために十分な接地面積が欲しかったためです。一辺の長さは20cmですので、この接地面の大きさでガタつくことがなくなります。
もう一つは、足板をスリットに挿すときに足板のどの面を挿したらよいのかを気にしなくても済むようにするためです。限られた時間でたくさんの製本をしたいときには、注意すべき点だけに集中したいので、作業負荷を少しでも軽くするために正方形を採用しました。
木製で軽量、コンパクトにしまえる
締めつけ板と足板が分離しているため、べつべつに収納できるので場所をとりません。
また、金具以外は木製なので軽いのも特徴の一つです。
※写真は とじ助 文庫・コミックサイズのものです
締付け力が強い
製本の際には、原稿を締めつけ板ではさんでネジ(蝶ナット)で締めますが、板とネジの間にバネワッシャがはさんであるため、作業のあいだじゅうずっと適度な締めつけ状態が保てます。
原稿の固定は作業の基本なので、原稿がずれないことは作業の安心感につながります。
滑り止めゴム
締めつけ板の内側には原稿に密着するようにゴムがついています。適度な弾力と密着で背の傷入れや糊付のためのアイロンかけで原稿がずれることがありません。また、このゴムは自動車のドアのパッキンに使われているものと同じものですので、短期間で劣化してボロボロになることはありません。
頑丈、改造・修理も簡単
使っている部品も木と金具だけのシンプルな構造なのでちょっとのことでは壊れません。
しかも、木製ですので自分なりに改良が加えやすいです。
例えば、溝入れのために原稿の飛び出しをもう少し高くしたい場合は、飛び出し確保ピンの横に所望の高さのピンを刺せばよいです。飛び出しを低くしたい場合は、ヤスリで削ることで低くすることもできます。(標準では5mmとなっています)
4cm以上の厚さの原稿を製本したいときは、ボルトを更に長いものに交換すれば可能です。(標準ではM8の110mmがつけてあります)
また、木製なので、傷がついたり変色したりすることがありますが、サンドペーパーをかけることで、新品同様に戻すことができます。

ピンで高さを調整できます(赤枠)

ボルトを交換できます(赤枠)
木のぬくもりとやさしい手ざわり
手にした時に木製品特有のしっとりとしたやさしい手ざわりをあじわえ、製本するのが楽しくなります。
ワンポイントに、完成品の証の焼き印が入れてあります。
お客様の声
・これで締め切りまでに60冊の冊子製本が可能となりました。今までのあの苦労はなんだったのだろうと思うほどです。
・届いた商品の土台のさわり心地などとても感触が良くてやはり頼んでよかったと思います。
・手作り感と、木の温もりが最高です。大切に使わせて頂きます。
・商品に関しても大変よくできており満足しております。
・作りがしっかりしていて、とても使いやすそうです。大事に使わせていただきます。
とじ助の使い方
とじ助を使ってホットメルトシートで背固めする製本方法のムービー版です。
※テキスト版も合わせてご覧ください。
グルーガンを使った製本方法[30枚(60ページ)程度の小冊子編](写真とテキスト)