ホットメルトの選び方
製本の背糊として使うホットメルトですが、製本用のホットメルトを使うことが最適とは思いますが、手に入りにくいとか、グルーガンで製本したい場合にはホットメルトスティックを使用することになります。
糸で綴じる製本と違ってホットメルトで糊付けする無線綴じ製本の場合は長い期間が経つと背糊が劣化して硬くなり背割れやページ抜けが発生しやすくなります。経年劣化は簡易製本なので仕方ないところなのですが、それでもできるならば発生しにくいホットメルトを使いたいところです。
ちまたにはホットメルト(スティック含む)はたくさん存在していますのでどれを使ったら良いかわかりません。
そこで、
・硬さ(開きやすさ)
・強度
・もちの良さ(経年劣化しなさ、背割れのなさ)
の確認をしましたのでレポートします。(ここの記事を改稿、追記したものです)
最初の調査が2015年5月で最後の調査が2017年12月なので2年7ヶ月の歳月をかけての実験です。
<やり方>
1.数種類の市販のホットメルトチップやホットメルトスティックをシート上にして、ホットメルトシートを作ります(作り方はこちらを参照してください)
2.厚さ三センチの本を製本する
3.硬さ、強度を確認する
4.2年7ヶ月の間、西陽の当たる窓のさんに背を向けて放置する
5.再度、硬さ、強度を確認する
まずは調査で使ったホットメルトについてです。
<手芸・工作用>
ダイソー ホットボンドスティック
藤原産業 ホットボンドスティック SK-11
<製本用>
当店の製本用ホットメルトチップ
リヒトラブ ホットメルトシート
この4種類を使いました。値段はホットメルトシート化した場合、一枚約50円~400円とかなり幅があります。
まずは、シートになっていないものをシート化してその硬さを見てみます。
ダイソーのホットボンドスティックです

ダイソーのホットボンドスティック

シート化したもの
次に、藤原産業のホットボンドスティックSK-11で作ったシートです。
透明のスティックだったので、透けています。

藤原産業 SK-11

シート化したもの
次に、当店のホットメルトチップでつくったシートです。
チップの色がクリーム色なので、やや黄みがかったシートが出来ました。

当店のホットメルトチップ

シート化したもの
最後は、リヒトラボのホットメルトシートです。
これは既製品です。当店の製本用ホットメルトチップと同じように黄みがかった色です。

ホットメルトシート(リヒトラボ)

シート状です
出来上がったシートの柔軟性を比較するために立ててみました。
ダイソーです。真っ白で張りがあってくたくたしません。

ダイソー
藤原産業 SK-11です。かなり柔らかくて、くにゃっとして床につきました。

藤原産業 SK-11
当店のホットメルトチップです。こちらも床につきました。

当店のホットメルトチップ
リヒトラボのホットメルトシートです。裏が粘着になっていて、剥離紙が付いているので、くたっとしません。これは剥離紙のためなので比較外ですね。
まとめると、材料となるホットメルトのメーカーによって出来上がるシートの硬さは異なります。
では、これらを使って製本してみます。
条件を同じにするため、子供のコロコロコミックをばらして、再製本してみます。
紙質は、いわゆる雑誌のざら紙です。
厚さは、3cmの厚さの本にします。
背に入れる溝は1cm間隔で約1mm溝入れします。
※本来は溝間隔5ミリ程度として強度を増すために補強和紙を入れたり、表紙をつけたりしますが、実験のためあえてそうしたものはつけないで製本します。
完成したホットメルトシート達
右から、ダイソー、藤原産業、製本工房とじ助、リヒトラボです。(3cm幅に切ってあります)
3cmの本を作ります
幅約1cm深さ1mm弱で溝を入れました
では、製本です。手順などはこちらを見ていただくとして、ホットメルトの乗り具合だけ写真を載せます。
ダイソーです

ダイソー
藤原産業です

藤原産業 SK-11
製本工房 とじ助です

当店のホットメルトチップ
リヒトラボです
ホットメルトが脇に流れ出しているのは、ホットメルトシートのサイズが大きすぎたからで、とくだん溶けやすいからとかそういうことではありません。融点はどれも同じようなものです。
一様に溝にホットメルトが入り込んでいて、背が透けて見えるくらいの厚さでホットメルトが乗っているのがわかると思います。
では、できた本の柔軟性(開きやすさ)を確認します。
ダイソーのホットボンドスティックのシートで製本したもの

ダイソー
藤原産業のホットボンドスティックのシートで製本したもの

藤原産業 SK-11
当店の製本用ホットメルトチップのシートで製本したもの

当店のホットメルトチップ
リヒトラボのホットメルトシートで製本したもの

リヒトラボのホットメルトシート
おおむねどれも変わりません、ベタ開きができます。
気温が低い時の開きやすさはどうなのかも実験してみました。
冷蔵庫入れて1時間冷やした後に開いてみましたが特に変化はありませんでした(写真は割愛します)
強さ(耐久力)テストもしてみました。
やり方は、本を開いた状態でおもりを吊るしてみて、重さによって背割れが発生しないかを確認します。
吊する重さはペットボトル2本に水をいっぱい入れて、3.5kgです。
こんな仕組みにしてみました。

本を開いた状態でつるして上下をクリップではさみます
本を開いた状態でつるして上下をクリップではさみます。

ペットボトルを吊るします
ペットボトルを吊るします
結果です。
ダイソーです

ダイソー
藤原産業 SK-11です

藤原産業 SK-11
製本工房 とじ助のホットメルトチップです。

当店のホットメルトチップ
リヒトラボのホットメルトシートです。

リヒトラボのホットメルトシート
どのホットメルトシートでも3.5kgつるしても背割れ、破損は起きませんでした。
ここまでの結果です。
<結果>
・硬さ(開きやすさ)
ホットメルトシート化した時には硬さに違いがありますが、製本した場合は背にのるホットメルト自体の厚さが薄いため、どのメーカーのものでも気になりません。
・強度
ページを開いて重さ3.5Kgまでであれば、背割れ、破損などは起きずどのメーカーのものでも違いは見られませんでした。
できた本は経年劣化を調べるためしばらく放置しておきます。
-ここからは2年7ヶ月後の実験結果です-
最後に「もちの良さ(経年劣化しなさ、背割れのなさ)」です。
いつか検証しようと思いながら2年と7ヶ月も経っていました。
放置していた場所は写真のような西日の当たる2Fのまどで、背をガラスに向けるようにおいておきました。
とくにエアコンや暖房を入れる部屋ではないので夏は暑く冬は寒い過酷な場所です。

西日の当たる2Fの窓際です。
本たちはこのように黄ばんでいました。
それぞれの背の状態です。
ダイソーです。

ダイソー
藤原産業 SK-11です

藤原産業 SK-11
当店のホットメルトチップです

当店のホットメルトチップ
リヒトラボのホットメルトシートです。

リヒトラボのホットメルトシート
紙が日焼けしているものの見た目では特に問題なさそうです。
開いてみてどうなるのか確認します。
ダイソーです。

ダイソー
藤原産業 SK-11です

藤原産業 SK-11
当店のホットメルトチップです

当店のホットメルトチップ
リヒトラボのホットメルトシートです。

リヒトラボのホットメルトシート
20回ほど開いたり閉じたりを繰り返してみましたが背割れやページ抜けなどは発生しませんでした。
最後に気になる強度です。前回と同じ方法で実験しますが、いきなり重いおもりを吊るして破損するのを防ぐためまずは500グラムのおもりから始めます。
ダイソーです。

ダイソー
藤原産業 SK-11です

藤原産業 SK-11
当店のホットメルトチップです

当店のホットメルトチップ
リヒトラボのホットメルトシートです。

リヒトラボのホットメルトシート
500グラムではどれも破損することなく耐えました。
次に、2キログラムのおもりをつけて確認しました。
ダイソーですが、残念ながら左側が切れてしまいました。

ダイソー
藤原産業 SK-11です。問題ありません。

藤原産業 SK-11
当店のホットメルトチップです。問題ありません。

当店のホットメルトチップ
リヒトラボのホットメルトシートです。問題ありません。

リヒトラボのホットメルトシート
<結果>
・硬さ(開きやすさ)
開いてみてもとくに背がバリバリいったり、硬化していたりということはありませんでした。硬化したものが剥がれ落ちるということもありませんでした。
・強度
ページを開いて重さ500グラムを吊るした状態では背割れ、破損などは起きませんでしたが、2キログラムを吊るすとダイソーのものは背割れが発生して、左側彼切れてきました。
シート化した時にのせた写真にあるようにダイソーのものはやや固く柔軟性にかけていました。この柔軟性のなさが背割れにつながったのではないかと推測します。
<まとめ>
実験してみて個人的な感想としては、製本にはどのホットメルトを使ってもあまり変わりはないのではないかと思っています(商売的には当店のものをおすすめしたいのですが 笑)。
ただ、今回は2年7ヶ月の期間でしたが、これが5年、10年持つかというとそれはわかりません。
ここでは実験していませんが、あるメーカーのホットメルトスティックは1年で背割れが発生したものもあります。(そうしたこともあり、こうした実験をしようと思った次第です。)
感覚的な話になりますが、どれがおすすめかと問われれば、スティック(またはチップ)自体が柔らかいもの、または製本用と明記されているものがいいと思います。今回使った藤原産業のSK-11は透明のスティックで、よく見かける本の白い背糊とは異なるので懐疑的でしたが、柔らかく柔軟性があるため本にした時にいい感じでした。
注意していただきたいのは、今回の実験はあくまでも、ホットメルトの違いを知るために、悪い環境であまり推奨できない製本方法で実験した結果です。
・本を置く場所(日当たりのいいところは避ける)
・背には補強和紙(または寒冷紗など)を入れ
・背表紙をつける
などで劣化大きく遅らせることが可能です。
文章、期間ともに長々書きましたが、ホットメルト選びの参考になれば幸いです。