◆中級編◆ホットメルトシートと製本テープを使ったハードカバーの本(写真集)の作り方[プリンター印刷した写真の製本方法]
ハードカバーの本というと、少し敷居が高い感じがしますが、ホットメルトと製本テープを上手に使って楽ができるところは楽をすれば、それほど手間もかかりません。
これができれば、表現の幅がぐっと広がりますのでアイデア次第でオリジナルの装飾を施した本を作ることができます。
ここではインクジェットプリンターで印刷した両面写真紙を製本してフォトアルバム(写真集)を作ってみます。
写真集ですので、表紙には厚くてしっかりした紙を使用して、何度も閉じたり開いたりしても壊れないように強度にも気を配って製作します。
コピー用紙に印刷した自作の原稿や雑誌の合本なども同じ作り方で出来ますので、適宜読み替えていただければと思います。
本の各部の名称
製本の用語や本の各部の名前は、昔から呼び習わされた特殊な用語が少なくありません。
馴染みのないものもありますが、作り方を説明する上で用語を使ったほうがスムーズに説明できることも多いため、すべてを覚える必要はありませんが、ひと通り目を通しておいてください。
道具
まずは、作るのに必要な道具です。*印以外のものは専用のものでなくても代用可能なものです。
たとえば、製本機は大型のクリップでも何とかできますし、カッティングマットは古雑誌や古新聞でも代用できます。ただし、専用のものを用意したほうが、より簡単に、きれいに仕上がります。
- 製本機
本文(束ねた原稿のこと)を束ねて固定します。写真は「とじ助B4サイズ用」です) - スティックのり*
表紙と見返しを貼るときに使います - ボンド*
本文と背を貼るときに使います - 定規*
カッターあてて髪を切ったり、束厚(原稿の厚さ)を計るときに使います。長いのと短いのの2本あると便利です。 - 折りべら
紙に折り目をつけたり、紙を切るときの目印をつけるために使います。彫塑用の木ベラを使っています。 - カッター・ハサミ*
紙やホットメルトシートを切るときに使います - アイロン*
ホットメルトシートを溶かして本文の背を接着します - 金ノコ
本文の背に溝を切ります。(写真は「溝切り名人」です) - カッティングマット
紙をカッターで切るときに下に敷きます - シリコンシート(クッキングシート)*
アイロンをあてるときにホットメルトシートの上にのせます
道具の写真(クリックで大きな画像になります)
材料
- 原稿
本の本文になる用紙です。
今回はA4サイズ(297ミリx210ミリ)の写真集を作るので、
コクヨ インクジエットプリンタ用紙 両面写真用紙 光沢(型番:KJ-G23A4-30)を両面印刷しました。
- 板目紙(いためがみ)
公官庁などでよく使われている(使われていた)書類をとじる際に表紙として使用する厚紙です。
表紙として使います。
いわゆる厚手のダンボール紙である白(グレー)の板目紙は比較的手に入りやすいですが、色のついたものは大きめの画材屋さんなどでないと手に入らないかもしれません。
今回は、アルバムということで、チリ(本文よりも少しはみ出した部分)を出して、本文(A4)よりも少し大きなサイズの表紙としますので、 美濃判(B4綴じ用)(273×395mm)を2枚使いました。
- 画用紙
表紙と本文を繋ぐ役割をする見返しとして使います。
表紙につく分が「きき紙」、本文につく部分が「遊び」となるので本文(A4)の倍のサイズ(A3)が必要です。
今回は四つ切(392mm×542mm)を使用します。
- 補強和紙
背をホットメルトシートで糊付けするときに強度を増すために短冊形に切って貼り付けます。
手に入りやすく、強度もある障子紙を使用します。障子紙はあまり高級なものより、一般的なもののほうがちぎれにくいようです。(いわゆる「破れにくい~」と謳われているようなもの)
- ホットメルトシート(リヒトラブ製 A4サイズ)
熱でとける板状(厚さ0.8mm程度)の樹脂シートです。170度程度で十分な粘着性を発揮しますので、アイロンで溶かして使用します。一般の女性ファッション誌や少年ジャンプなどの雑誌、文庫本などもこの糊(樹脂)で製本されています。
一旦溶けた糊は温度が下がると固まります。
背固めはボンドで代用する場合もありますが、ボンドの場合は、ボンドがしっかり固まるまで数時間放置する必要があります。ホットメルトでしたら数分で固まりますので、これを使うことで、面倒な背の加工の工程が劇的に楽になり、製本のスピードが格段に早くなります。裏面が粘着テープになっていて、あらかじめ背に貼ることで、ずれずにアイロンをあてることができます。
- 製本テープ
表紙の背に貼ります。表紙を構成するパーツは、表表紙、裏表紙、背の3面があるのですが、それらをつなぐために使用します。本格的な製本では表紙の3パーツをクロスでくるんだりしますが、かなり高度なが技術が必要ですので、手軽さを重視して製本テープを使用します。
色は「パステルブルー」で35mm幅を選択しました。
色については、ニチバンから出ているものは13色もありますのでお好きな色が選べます。
これらの道具と材料はこちらの「とじ助 スターターセット」で基本的なものがそろいます。
工程
道具と材料が揃ったところで、いざ、製作です。
大まかな作業工程は次のようになります。
- 原稿の作成
- 溝切り
- 綴じ
- 見返しの作成
- 表紙の作成
- 表紙貼り
- 見返しの糊入れ
原稿の作成
本文となる原稿を印刷して、本になった時にスムーズに読み進められるように順序良く並べます。
印刷する前に決めておかなければならないのは、右綴じの本を作るのか、左綴じの本を作るのかです。どちらにするかによって、綴るときの余白を右にとって印刷するか、左にとって印刷するのかが決まります。(下図ピンクの部分)
一般に本文が縦書なら右綴じ、横書きなら左綴じとなります。
閉じ方向が決まったら、プリンターで原稿を印刷します。両面印刷をするわけですが、プリンターの機能によって印刷の仕方が異なります。
- 1回の印刷で両面印刷ができるものや(両面オプション付きのレーザープリンター)
- いったんすべての片面を印刷してから、紙を裏返しにセットして全てのもう片面を印刷するもの(最近のインクジェットプリンターや両面オプションのないレーザープリンター)
- まったく両面印刷機能がないため、1枚づつ、それぞれの面をセットして印刷しなければならないもの(古いタイプのインクジェットプリンター)
などがあります。1や2のプリンターの場合には両面印刷の設定で余白を設定する部分があります。この設定をすると、印刷データ自体を設定した余白分ずらして印刷してくれます。
例えば紙の中心に丸を書いた2ページのデータに、「両面印刷ー左綴じー余白1cm」と設定して印刷すると、紙の表面は丸の中心が1cm右にずれて印刷され、紙の裏面は丸の裏面が左に1cmずれて印刷されます。両面印刷された紙を表から透かしてみると、左に余白が1cm付加され、丸自体は重なって見えるはずです。
ちょっと難しいですかね。とにかく、「両面印刷ー左綴じー余白1cm」というように設定すると、製本した時に市販の本と同じような見栄えで印刷してくれるということです。
ちなみに3のようなタイプのプリンターの場合、データ自体を奇数ページは右寄りに、偶数ページは左寄りに作っておく必要があります。
プリンターの機能や設定方法はお使いのプリンターの説明書をご覧になってみてください。
一例ということで、インクジェットプリンターのプリンターの設定をあげておきます。
印刷が終わったら、正しい順序に並んでいるかよく確認します。特にページを入れている場合にはページの数字と順番があっているかも確認しましょう。
溝切り
本文が印刷出来ましたので、背の部分でまとめる作業を行います。
手芸の本で紹介されている手製本の方法は、綴る場合には、折丁をつくって、それぞれを重ねて糸でかがっていく方法が主です。しかし、糸でかがる方法は、熟練を要しますし、製作に時間もかかるため、今回はこの作業をホットメルトという熱で溶ける糊を使うことで簡略化します。
最終的には背をホットメルトで固めるのですが、その前段階としてホットメルトがよく浸透して、ページ抜けが発生しないようにするために、背に切込み(溝)を入れます。
原稿を挿しこんで、上からトントンと落とすようにして背をそろえます。
横から足板に向かってトントン押すようにして、天地をそろえます。
片手で締め板をしっかり押さえて、もう片方の手でネジを締めます。
同様に反対側も、片手でしっかり押さえてもう片方の手でネジを締めます。
足板を押さえながらひっくり返します。これで、固定具兼作業台ができました。
背の部分がでこぼこしておらず、きれいにそろっていることを確認します。
揃っていないようなら、再び、ネジをゆるめて先ほどの手順で原稿をはさみます。
原稿がしっかり固定されたので溝を切っていきます。
溝の間隔は5ミリ間隔で、深さは0.5ミリが理想です。間隔は正確なほど仕上がりがきれいになります。
紙の束は、紙質にもよるのですが意外に固く、コート紙の束などはかなりの力を必要とします。そのため、切るための道具は金ノコがよいと思います。
ここでは、当店オリジナルの「溝切り名人」を使って説明します。
位置決めをするために、刃を背に角に斜めに当てて一気に引いて角に傷を入れます。
このように傷を入れます
傷に合わせて刃を前後して鋸引きしながら、徐々に刃を寝かせていって、4つの溝が均等な深さになるようにします。
溝の深さの目安は0.5mmです。あまり深いとホットメルトが浸透しきれず、逆に強度が落ちてしまいますので要注意です。
均等に溝を切るとこのようになります。
溝切りは、面倒な作業ですが糸綴じと違って、この部分とホットメルトの接着が強度のキモとなりますので、根気よく行ってください。
綴じ
本文を製本機に固定したままの状態で、ホットメルトで背を糊付けする作業を行います。
強度を増すために、ホットメルトの上に補強和紙を重ねてアイロンをあてて、糊を溶かします。
まずは、本文の厚さ(束厚)を測ります。6ミリです。
ホットメルトシートを6ミリの幅で切るために、カッターで6ミリのところに印をつけます。
A4サイズ用のホットメルトシートを使っているので長さはこのまま切らずに完成です。
次に、補強和紙(障子紙)をカットします。平側に5ミリ回し込みたいので、
左回り込み(5ミリ)+束厚(6ミリ)+右回り込み(5ミリ)=16で
16ミリの幅の短冊を作ります。
カッターで16ミリのところに印をつけます。
これで6ミリ幅のホットメルトシートと、16ミリ幅の背貼り紙ができました。
ホットメルトの長さが少し短いのは、アイロンの熱で溶けた時に広がるのでそれを考慮した長さです。
ホットメルトシート裏の剥離紙を剥がして背の端に貼り付けます。このとき、端から4ミリ離したところから貼り始めます。
貼り終わった端も4ミリ隙間ができます。これで正しいです。
左右は背からはみ出していないことを確認します。
背貼り和紙を仮止めするためにボンドを点を打つように塗ります。
先ほど切り出した補強和紙を、背を中心として左右5ミリはみ出るようにのせるように貼り付けます。
アイロンの温度設定を170度程度(中~高)に温めておいて、シリコンシートの上から背にあてます。
しばらくすると、ホットメルトが溶け始めます。少し溶けて山が潰れたと思ったら、移動します。
順に移動してホットメルトを溶かしていき、ホットメルトの山がすべてつぶれたら、洋服にアイロンをかけるように左右にすべらせて、最終的には、まっ平らになるようにします。(実際には、背貼り紙があるのでまっ平らにはなりません。そういう感覚ということです)
このようにシリコンシートを通して溝がわかるようになればOKです。溝にホットメルトが浸透したということです。このまま冷めてホットメルトが固まるまでしばらく置きます。(10分程度)
補強和紙が羽のようになっていますが、今のところこれで正しいです。
平を上にして置いて、背を覆うようにシリコンシートをかぶせます。
側面から補強和紙の羽の部分を平に回しこむようにアイロンをあてます。
平に回しこんだ部分を上からプレスするようにアイロンをあてます。
十分冷えたら、シリコンシートを外します。すこしホットメルトがはみ出ているかもしれませんが、この後の行程で、見返しと表紙を貼りますので気にする必要はありません。
見返しの作成
最終的には本文に表紙をつけるわけですが、本文と表紙のつながりを強くするために見返しを作成します。
2つに折った紙の片側を表紙裏に貼り、もう一方を本文に貼りつけます。
表紙裏に貼り付けられる方を「効き紙」、残った方を「遊び」といいます。
折りヘラの先の尖った方の平らな面を小口(背の反対側)に沿わせて紙に筋をつけます。
折り重なっていない部分に定規をあてて、カッターで切り落とします。
これで本文の2倍サイズの見返しが出来ました。
本文はA4サイズですので、A3サイズの画用紙が用意できるようでしたら半分に折るだけで、この作業は省略できます。
これで見返しが完成しました。見返しが出来ましたので、見返しの「遊び」の面を本文に貼り付けます。
本文の平の背側にボンドをのせます。後で延ばして5ミリの幅にしますので、背にそって滑らすようにやや厚めに載せます。
ボンド用のヘラ(プリンについてくるスプーン等でも代用可)で約5ミリの幅になるように延ばします。
2つ折りにした見返しの折ってある方の辺の角をボンドをつけた辺の角に合わせます。
同様にして裏面も貼り付けます。イメージとしては上の図のように青い部分にボンドをつけて貼り付けた状態となります。
両面とも貼り付けたら、製本機で締めて乾くのを待ちます。
完成するとこのようになります。開いている部分が後ほど表紙に貼り付く効き紙になります。
左が効き紙、右が遊び、写真ページが本文です。
表紙の作成
板目紙を2枚用意します。本文を保護するためにチリ(3方の小口が本文より数ミリ出ている部分)を作りたいのでA4よりも大きなサイズの用紙を用意しました。
チリが必要ない場合は、A4サイズの板目紙を3枚用意して、それぞれ表紙、裏表紙、背に使えば作業を簡略化することができます。
チリを天地3ミリずつ出したいので、A4用紙の高さ(297ミリ)+天のチリ(3ミリ)+地のチリ(3ミリ)=303ミリを測ります。
前小口についてもチリを3ミリ出したいので、A4用紙の幅(210ミリ)+チリ(3ミリ)=213ミリを測ってカッターで印をつけます。対辺も同様に測って印をつけます。
背に貼る部分をつくるため、見返しをつけた状態の束厚を測ります。見返しのない状態では6ミリでしたが、見返しをつけてホットメルトで綴じた状態では7ミリになっていました。
先ほど切り落とした余った部分を利用して7ミリの短冊を作ります。
定規をあてて7ミリの部分にカッターで印をつけます。対辺も同様に印をつけます。
パーツを貼りあわせるために製本テープを用意します。35ミリ幅のテープを用意しました。
製本テープを
A4サイズの長さ(297ミリ)+天のチリ(3ミリ)+地のチリ(3ミリ)+天の折り返し(3ミリ)+地の折り返し(3ミリ)=309ミリの長さにカットします。
製本テープの剥離紙を半分剥がします。(剥離紙は中心で2等分されていて半分ずつはがせるようになっています)
今貼った背のパーツから2ミリ離して表紙のパーツを貼ります。2ミリ離すのは、本を開いた時に開きやすいようにミゾを作るためです。
これで表紙の完成です。こちらの面が裏面(本に貼り付ける側)になります。
こちらの面は表面(平の側)になります。
表紙貼り
いよいよ表紙と本文を貼り付けて完成に近づけます。
表紙と本文をつなぐ重要な部分ですので少し多めに盛りつけます。
製本機で挟んで、ボンドが乾くのを待ちます。
見返しの糊入
最後の工程です。表紙と見返し(効き紙)を貼り付けます。
スティックのりを用意します。ふつうの液体のりでもいいのですが、つけすぎると皺になったり一度つけると貼り直しが困難なため、水分のない固形のりを使うほうが作業が楽になります。
効き紙をめくるようにして、表紙側に倒して貼り付けます。この時シワが出ないことと、効き紙と遊びが平面になるように気をつけます。
ウラ表紙も同様に貼り付けます。
足板で挟んで、締板で締めてのりが乾くまで固定します。(本の厚さによっては足板で挟むことが難しいかもしれません。その場合は、本に足板を2枚載せ重石をかけるなどしてください)
完成
のりが乾いたら製本機から外して完成です。
外観です。
このようにチリ(本文より表紙が出ている部分)が出ています。
効き紙、遊びがついています。
天から見たところです。
表紙をめくると遊びのページになります。
遊びをめくると本文です。
世界でただひとつの写真集の完成です!
おわりに
いかがでしたでしょうか。
自分で本を作るのは、手順を追っていけばさほど難しくありません。
本格的な手製本をする方からみると、このやり方は、手抜きというか邪道と見えるかもしれません。
ただ、楽ができるところは楽をしてしまって、本を作る楽しみがより多くの人に広がれば、それもいいのではないかと思います。
完成した本は、表紙の装飾をしていないため少し寂しい感じがしますが、表紙に文字を入れたり、さらに表紙紙を作ってくるんだりしてもよいでしょう。
カッターで窓を開けてそこから写真がのぞくようにするのも楽しいかもしれません。
これを基礎にしてアイデア次第でいくらでもオリジナルの本を作ることができます。
ぜひ、手製本を楽しんでください。
この他の製本方法についてはこちらをご覧ください。